この記事は、企業の人材育成の現状を伝えるシリーズ【企業と共育】Vol.2。セキハツオートワークスの関一憲さんのインタビューの後編になります。(前編はこちら)
大事な地域のために尽くす。その優しい眼差しを感じる前編。
過疎地域と言われる土地に根ざしてしっかりビジネスを成立させるのは、一般的な拡大路線やグローバル戦略とは違うかもしれないけれど、だからこそ、逆説的にとてもクリエイティブだと感じました。
後編は、さらにどうその地域にどう関わってビジネス展開をしていくのかを詳しくお聴きしました。
— 過疎指定地域であっても地元を大切に、その土地でビジネスをするという関さんのあり方と、サービスの質を向上し続ける、というのが矛盾なく同居していて、それがまたその地でのシェア獲得や、他店舗展開といった経営戦略ともリンクしていて、とても興味深いです。他店舗展開するっていうお話でしたが、他の事業に行く、というのは考えていたりするのでしょうか。
はい。もちろんそれはありますね。全く別の飲食業をやるとかではないんだけど、今のうちのコンセプトは『クルマ生活応援団』なんです。車を通して、ということを言うと、やはり高齢化で免許返納したりとか、あとは介護状態の人が多かったりとか、こういう介護車両のサポートですとか、あとは買い物難民のサポートとか、あと免許返納した人に対しての電動のバイクや高齢者用のセニアカーの販売や整備など、そういうところです。
ー 『クルマ生活応援団』、素敵ですね。車が絶対に必要な大多喜町の人たちにとって、とても心強いと思います。しかも免許返納後サポートをするというのも興味深いです。最近、高齢者の運転事故が多い印象ですが、車が必要な地域に住んでると、どうしても生活のために免許を手放せない方が多いのだと思います。なので、病院や買い物の送迎といった免許返納後の生活に安心してもらうことが、免許を返納する人たちを増やすことに繋がるんだな、と目からウロコが落ちました。
「安心」というのはキーワードのひとつですね。大多喜町の人たちにいかに安心してもらえるか、そのことさえ外さなければ、今後、社会がどう変化しようと対応できると思ってます。たとえば、AIや自動運転。これらは車と切っても切り離せないので、これからどう事業展開していくか具体的には分からないけど、もしかしたら今後AIが発達してくると自動運転になる。そうすると、もしかしたら自動運転の巡回バスをうちが走らせるとか、そういうのはあるかもしれないと思っています。直近で言うと、Uberのようなスマホからの配車依頼が、この地域で当たり前になれば、Uberのシステムを利用させてもらって運送とかはするかもしれません。
ー 社会の変化と、地域の人たちのニーズを丁寧にすり合わせていくというということですか。ただ、地域のいろんな課題がどんどん出てくると思いますが、今後も含めてビジネスの軸というのは何なのでしょうか。
そうですね。僕は、やっぱりうちの会社のやるべきことは、車の整備とか、メンテナンスとか、販売とか、総合的なカバーをしたいです。だから突出してこの事業を際立てるというのは、あまり僕の中ではないです。町のよろず屋さんみたいなポジションを目指す感じというか…。
ー それは、車の、ということですか。それとも、車に限らず、ですか?
車を起点にして、ですかね。今、なんとなくですが、車を軸にして、お客様と深い関係性をつくれています。家族ぐるみでのお付き合いとかも多い。そうすると、自然発生的にですけど、金融関係の商品で、どれが良いか教えて欲しいとか、そういった依頼がかなり出るようになりました。例えば生命保険とか相続とか。相続には、車も含まれているので、そういった相談も受け始めたんですね。誰々さんのおじいちゃんにご不幸があって車が残される。そこから「これどうしたらいいんでしょうか?」って車の相続から話が広がって、土地や建物とか車以外の財産の相続とかにまで相談の内容が拡がっていきます。そして、そういったこと全般に対して、次の世代の人が将来のファイナンスのリスクとどう向き合うのかを、「どうしましょうか?」とか「どうしたいですか?」ってファイナンシャルプランナー的にサポートしています。そういう車をキッカケに、今の『車生活応援団』の応援する範囲を広げて、「人の生活応援」という事業ドメインのほうに少しずつ移動しているような感じです。そのためのスペシャリスト、例えば、自動車整備、販売、タイヤ、板金塗装、ボディコーティング、カーフィルム、保険など様々な専門家が一つの組織対をつくっている感じです。
— もう本当に大多喜町のためのよろずやさんですね。車をキッカケに、お客さんと強い信頼がないとなかなかそういった相談を、しかも相手から、してくるということはないと思います。
ええ。本当に自然発生的に、です。もともと僕はそこまで戦略的思考を持ち合わせていません。ただ、コーチングをきっかけに「お様の声だけは一生懸命聴けるような会社になろうね」って。とにかく「聴く」ということに、コーチングに出会った2005年から積極的に会社として取り組んできました。そうしていく中で、お客さんから色んな問題や要望が出てきて、それを解決していくというだけです。
ー 戦略とか、市場性とかも大切だけど、なにより「聴く」ことや、地域の人達を大事にしていくんだ、という企業文化のようなものがとても強く感じます。そもそも、どうしてそういったものが出来上がったのでしょうか。
たしかに親から会社を継いだときは、規模の拡大や、業績をどう上げるか、ということを大切にしていました。そのときには、もう大多喜町の人口減少はどんどん始まってました。そうした状況でも毎年、試行錯誤しながら業績を伸ばしていきました。ただ、ある時から、商売をやっていて苦しくなったんです。なんで、業績を上げてるんだろうと。たしかに業績が上がると一瞬だけ嬉しいんですが、それだけです。そして、この虚無感と向き合う中で、コーチングにも出会って、自分を深く見つめ直していきました。僕がやりたい事、僕が望んでる姿ってどうだったんだろう、って振り返ったら、父と母が望んでいた姿ってどうだったんだろうって思ったんです。それにまた、じいちゃんや、ばあちゃんが創業した想いとかどうだったんだろうとか。そうしたら、「規模の拡大」ではなくて、今、目の前にいる人や、社員さんとか家族とかの幸せが中心にあったんです。じゃあ、「幸せ」ってどんな状況なの?ってところで、業績をあげることは、一瞬ホッとするけど、幸せじゃないということに気がつきました。そして、会社としてどう幸せを実現していくのかと考えました。ここはマーケット的にも業績上げづらいエリアなので、大きな変化がない。でも、僕がそこで思ったのが、企業規模よりも「一人当たり」で見ようということです。規模は小さくても、お客さん一人ひとりと強く結びついていこう。そして、会社の経営指標や営業スタイル、人事評価、教育プログラムなどいろんな基準を「人が幸せを感じること」に合わせて変えました。
ー 具体的には、どのような点が大きく変化しましたか?
重要な変化は経営指標の中で、最初に話した「リピート率」、そして、「紹介率」を盛り込み、大切にすることそのために、スタッフのみなさんの人間性評価や、実際にお客さんの役に立っているかどうかの活動評価を導入しました。会社全体として、どうやったら信頼いただいているお客さんから大事な人を紹介してもらえるのか。その実現のために俺たちどういうふうに動けるんだろうか、ということを絶えず考えて仕事しているので、紹介率とリピート率はずっと計測しています。
ー お客さんと信頼を高め、大事な人を紹介してもらう、という考え方になって、仕事の仕方は、どう変化したのでしょうか。
一般的に、車屋さんは、車を販売し契約することに一番力を割きます。モチベーションもそこがピークです。ただ、お客さんが一番嬉しいのは、納車時です。そして納車後も、こちらが一所懸命フォローして、常に快適な車生活が送れると、もっと嬉しいと思うんです。
なので、うちは販売・契約に力を割きません。チラシも配りませんし、会社公式のホームページもありません。営業もしない。その代わり、アフターフォローなど、今までのお客さんとの関係を徹底的に良くするという働き方に変わりました。
他のところでいうところの、「アフターサービス」がうちのメインサービスなんです。
ー そのようなカタチでビジネスをされると、実際どのような効果がありましたか。
おかげ様で、リピート率は、同業他社と比べて、2〜5倍ぐらいで、顧客単価も上がってます。市場占有率も、一番高いと思います。
ー すごいですね。今までご縁のあった人を大切にして、そこからまた紹介で丁寧に繋げていく…
そうです。それを今後も徹底します。
大多喜町にある企業は、人口減少ビジネスの最先端にいると思います。だからこそ、一人ひとりのお客さんをどうやって大切にするかを考え抜く。そして、トータルでサポートし続けられる関係性と、それを可能にする多様な専門性を高めていきます。
これからも、地域の人たちを支えられるようにサービスを提供し、地域の人たちに支えられて存在するような会社にしていきます。
— とっても素敵な関係ですね。企業とお客さんが、互いに、支え、支えられる。その好循環は、地域を明るく色づけていくんだろうと思います。今日は本当にありがとうございました。