シリーズ【企業と共育】Vol.1 価値観を育む経営のトライアングル(安並潤さま)前編

2017/10/10

願いの数だけ企業があり、会社の数だけ人の育て方はある。

企業を訪ねて人材教育の現状を伝えるシリーズ【企業と共育】
時代の変化を肌で感じる激動の今だからこそ、企業と人が共に育つあり方を探求します。

第一回は、井関産業株式会社代表取締役社長の安並潤さん。

今回、江戸の名残が強く残る門前仲町にある東京支社でお話を聴いてきました。

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ーまずお聞きしたいのですが、安並さんにとって社員のみなさんに教育するということはどういうことなのでしょうか。

昔から、会社で人を育てるということを重要だと考えていました。会社は人材ありきで、結局どんな価値を生むかは、その人のレベルによるからです。

ただ、最近の世の中の急激な変化に対応するために、先を読む力や流れを掴む力などをつけていかないといけないと思っています。この力を高めるために、思考力や情報獲得のアンテナの精度を良くしていきながら、価値観や思考プロセスをアップグレードするための人材教育が、今まで以上に必要だと考えています。ここを重点的に行おうとしています。

 

 ー具体的に、どのようにして思考力や情報収集の精度を良くしていこうとされていますか。

年くらい前から、ぼくは社員教育に関連した3つの柱を持っています。

『人間性を高める、創造性を育む、生産性の追求』の3つです。これが会社で経営と人材開発を両立させるために必要だと考えています。

ぼくは勝手に『経営のトライアングル』と言っていますが、これに即した問いかけを社員のみんなに対して常に行うことで、思考力が身につくと考えています。

「人間性ってなに?」

「創造性ってなんだろう?」

「今まで『生産性』って言ってきたけど、自分たちにとっても『生産性』ってなんだろう?」

といった具合に。

急に訊かれると、社員さんにとっては難しいことかもしれないし、答えがすぐに返ってくるわけではないですが、そういう接し方をしながら、ぼくがこの会社を通して、どういう人に成長して欲しいかを伝えています。

効果も少しずつ現れています。今では、この人間性と創造性と生産性を、自分たちの部署に照らし合わせたらどうなるのかを自主的に考える部署が出てきました。他にも、うちのバックヤードや管理本部は、「今やっている仕事は、この3つのうちの、ここに貢献しているんだ」というふうな思考を、業務に当たり前のものとして徐々に組み込んで行ってくれています。

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ーなるほど。安並さんの『経営のトライアングル』を、自分の仕事の中で、当たり前のように問い続けられるようになる、というのは、実際にやるとなると大変ではないですか。実際に、訊き始めた当初、社員の皆さんの反応はどんな感じだったのでしょうか。

最初、社員の中からは、全体的に「なぜ働くのに人間性と生産性と創造性が大事なのか、分からない」という感想も出てきました。しかし、ずっとぼくが言い続けたり、問いかけ続けることによって段々と浸透していきました。

ただ、浸透すればそれで良いのかと言うとそういうことではなくて、会社の実績と連動する形で、しっかり機能する必要があります。

たしかに、与えられた仕事をしっかりとやる、ということは最低限必要なことですが、社員さんには、それだけで満足してもらいたくない。今やっている自分の仕事の意味や価値を、この3つの視点で考えることは、仕事のパフォーマンスを上げるだけでなく、社員自身の価値観を高められると信じていますし、最近はそういうふうに社員のみんなにも、受け取ってもらえるようになってきました。

 

ー3つの視点での思考力アップと会社の実績が、連動する必要があるということでしたが、実際にチェックされたりはしていますか。

それはまだ出来てません。これは我が社の喫緊(きっきん)の課題です。どう連動してチェックするかを決めて、最終的には、会社がこの3つの視点を通して、どう社員を評価するかをしっかり制度として、社員さんに提供したいと考えています。

うちは現状では商社なので、営業が強い。なので、売上や粗利で社員の能力を測る傾向が強いです。これを急に変えるのは難しいかもしれないが、少しずつ『経営のトライアングル』に即して、「どういう業務プロセスで行ったか」を評価できるようにしていきたい。

ぼくが言う『経営のトライアングル』は、社員がビジネスマンとしての価値観をしっかり持ってもらうために必要な軸になると信じてます。

今は既存のマーケットがどんどん縮小していってます。だからこれからは、新たなマーケットをつくっていかなければいけない。そのときに健やかな価値観を身に着けておかないと、そもそも新しい発想をすることも出来ないし、アイディアを形にすることもできない。そういう対応力は、売上や粗利という結果だけを追いかけていても身につかないと考えています。

1020年先の将来はどうなって、どう対応していくのか」を今から当たり前のように社員さんが考えられるようになるためには、会社としての価値観もさることながら、社員一人ひとりの価値観がものすごく大事です。社員さんが健やかな価値観を身につけられる会社にしていきます。

 

ーとても興味深いです。社員のみなさん一人ひとりの価値観が、会社の10年先20年先を創っていくということですね。とても興味深いです。根本的な質問になりますが、そもそも、どうしてそのような考えになったのですか。

それは、ぼくが去年、研修を通して、徹底的に自分と向き合ったからです。ぼく自身がしっかりとした価値観を持ったからですね。去年1年間で、人生観・仕事観・人間観・社会観の4つの価値観を真剣に考えていきました。

特に、仕事観に向き合っているときに、人間が仕事をするのに求められる能力は、これからどんどんシビアになっていくのに、危機感を持っている人が少ないように感じます。仕事を通して学べることは、その人の意識次第で無限にあるのに、現状の生活のためだけに労働している。会社としても、社員さんが工夫をして新しいものをどんどんと生み出していって欲しい。その2つを同時に解決するには、仕事を通して、ぼくも含めた会社のみんなが自分に向き合い続けるしかないという考えに行き着きました。

今、社会では、しっかりとした価値観を持って、どうしてこの会社で、この仕事をしているのか、を考えることや、この会社がどこに向かっているかに無頓着な人が多いように感じます。今まではそれでも良かったのかもしれませんが、日本社会は、どんどん余裕がなくなってきています。会社も、とりあえず社員を雇って仕事してもらえれば良い、というわけにはいかなくなっています。そのため、働く人たちには、仕事を通して社会と繋がるんだという意識で、自分の価値観をしっかりと持って、自分の価値観と合うよう会社を見つけてもらいたい。そして、一時的な幸福や快楽ではなく、健やかな価値観から出てくる永続した幸せを求めて欲しい。その一方で、ぼくは経営者として、社員のみなさんにそういう人になってもらえるように働きかけつつ、会社の価値観を明確にする。そして、会社と個人の価値観が相乗効果で高め合えるような会社づくりを社員さんたちと一緒にしていこう、とあらためて考えるようになりました。

そうした中で、会社の大事にしていく価値観をまとめたのが、『経営のトライアングル』です。

後半に続く)